洗足池(大田区南千束) 撮影:5月11日
私が小学生の頃、蒲田の実家で両親がアパート経営を始めた。
父はサラリーマンだったから、今で言う副業である。
部屋数6、共同トイレ2つ、風呂なしのアパートだったが需要は強く、空きがあったことはほとんどない。
アパートの住人で最初から住んでいた一人が阿部さん(男性:中年独身)だ。
私の勉強部屋の真上(2階)に阿部さんは住んでいた。
彼は呑兵衛で、酔いがまわると大きな音で歌謡曲を流した。
「君は心の妻だから」あたりの曲がお気に入りだった。
また、洗面器の水をこぼして、階下の私の部屋の天井からぼたぼた水が落ちてくることがたびたびあった。
私が高校生の頃のこと。
兄と兄弟げんか(取っ組み合い)をしている最中に、「やめなさい!」と仲裁に来てくれたこともある。
かなり派手な喧嘩だったから心配して来てくださったのだ。
やがて、私は社会人となり蒲田を離れた。
阿部さんはアル中が高じて歩くことも不自由になり、彼のお姉さんに連れられてアパートを引き払ったそうだ。
後になって母から聞かされた。
おそらくもう、この世には生きておられないと思う。
でも、私の少年時代の思い出のなかに阿部さんは生きている。