根っことコケ
最近、テレビで三ツ矢サイダーの宣伝を目にすることがある。
アサヒ飲料によるコマーシャルである。
かつてコカコーラが普及する前に、日本の清涼飲料水の代表格と
いえば三ツ矢サイダーであった。
幼い頃、ビン容器の栓を栓抜きで抜いて氷の入ったコップに
注いで飲むのが楽しみだった。
着色料も含まれておらず一見して安全そうな飲み物だった。
ベルマークも付いていた。
この歴史ある飲み物の名前を聞いていつも思い出すのは、
亡き母のことである。
家族でサイダーを飲む時、母はいつも私に語るのだった。
「昔はぜいたく品でたまにしか飲めなかった。いつか、毎日
三ツ矢サイダーを飲めるようになりたいと思ったのよ」と。
戦前、戦後を通じて日本は貧しい国だった。
一部の裕福な家庭を除いて、多くの一般庶民はサイダーを
常飲できるほど豊かではなかったのだ。
私が幼い頃、つまり昭和30年代はこれから高度経済成長へと
日本が成長していく走りだった。
まさに映画 「Always 三丁目の夕日」で表現された時代である。
私がもの心がついた頃は、すでに毎日とはいかないまでも
週に数回はサイダーを楽しむ余裕が出てきた頃だったのだろう。
今ではもう飲むこともなくなった三ツ矢サイダー。
今度、スーパーへ行ったら買ってみようかなと思う。
そして豊かな時代の日本に生まれたことを感謝しながら
飲んでみるつもりだ。
もちろん、優しかった母を思い出しながら。